ランサムウェアはウイルス対策ソフトで防げないのか

ランサムウェアはウイルス対策ソフトだけでは防げないのでは、と不安に感じているあなたへ。最近はランサムウェアの感染経路や攻撃手法がどんどん高度化していて、従来のウイルス対策ソフトの限界が話題になることも増えてきました。ニュースやセミナーでランサムウェアの被害状況を耳にするたびに、自社のランサムウェア対策はこれで本当に大丈夫なのか、気になりますよね。

実際、ゼロデイ攻撃のような未知の脅威を悪用したランサムウェア攻撃や、多層防御をすり抜ける標的型攻撃も珍しくありません。エンドポイントでのEDRやXDRの導入、ネットワーク全体を見直すゼロトラストセキュリティ、さらには多要素認証やバックアップの3-2-1ルールといったキーワードが一気に出てきて、「何から手を付ければいいのか分からない」という声もよく聞きます。

さらにやっかいなのは、「自分たちは狙われるほど有名な企業ではないから大丈夫だろう」と思われがちな中堅・中小企業こそ、実際には狙われやすい側に入っていることです。IT担当者が少なく、専任のセキュリティ要員もいないなかで、ファイアウォールやウイルス対策ソフトだけに頼ってしまうケースも多く、「防いでいるつもりだったのに、いつの間にか侵入されていた」という相談を受けることもあります。

この記事では、ランサムウェアがウイルス対策ソフトだけでは防ぎきれない理由を整理しつつ、企業として現実的に取るべきランサムウェア対策を、攻撃手法と防御の両面から分かりやすくまとめていきます。入口対策だけではなく、多層防御やバックアップ戦略まで含めて、あなたの会社のセキュリティレベルを一段引き上げるヒントを持ち帰ってもらえたらうれしいです。

この記事でわかること
  • ウイルス対策ソフトだけでは防げない理由の整理
  • ランサムウェアの代表的な攻撃パターンと特徴
  • EDRやゼロトラストを軸にした多層防御の考え方
  • バックアップ戦略と組織づくりによる被害最小化のポイント
目次

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない理由と背景

ここでは、なぜランサムウェアがウイルス対策ソフトだけでは防ぎきれないのか、その背景にある技術的な構造と攻撃者の視点を、できるだけ噛み砕いてお話しします。単に「危ないから気をつけましょう」で終わらせず、どこに限界があり、どこから別の対策が必要になるのかをイメージできるようになるはずです。あなたの環境に当てはめながら読み進めてもらえると、どこから手を付けるべきかがかなりクリアになってきますよ。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない構造を理解する

まず押さえておきたいのは、従来型のウイルス対策ソフトの多くが「シグネチャベース」、つまり既知のマルウェアのパターンに依存しているという点です。過去に検体が集まり、パターンファイルに登録されたランサムウェアなら高い確率で検出できますが、新種やカスタマイズされた亜種、ゼロデイ攻撃を組み合わせたケースになると話は別です。

最近のランサムウェアは、暗号化処理だけでなくコードの難読化や自己変形、複数段階に分かれたロード手法などを駆使して、パターンマッチングをすり抜ける前提で設計されています。攻撃者側も「どのような振る舞いをするとブロックされるか」を研究しながら、検知をかいくぐるバージョンを次々と生成しています。特に、RaaS(Ransomware as a Service)のように、犯罪者向けのサービスとしてランサムウェアが提供される仕組みが広がり、技術力の高くない攻撃者でも高度な攻撃を実行できるようになっているのが現実です。

さらに厄介なのが、攻撃の入口が必ずしも怪しい実行ファイルとは限らないことです。実際には、Officeファイルのマクロやスクリプト、ブラウザの脆弱性、VPN機器の設定不備など、ランサムウェア以外の要素を足がかりに侵入してきます。この時点では、ウイルス対策ソフトの出番がそもそも来ていない、というケースも多いのです。また、攻撃者が先に特権アカウントを奪い、管理者権限で「正規のツール」を動かす形で暗号化を進めると、なおのこと検知は難しくなります。

組織向けの脅威全体を俯瞰すると、ランサム攻撃は今も最重要のテーマです。たとえば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表している「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、組織向けの脅威としてランサム攻撃による被害が継続的に上位に挙げられており、十分な対策が求められています(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025」)。

シグネチャ型と振る舞い検知の違いイメージ

項目シグネチャ型アンチウイルス振る舞い検知(EDRなど)
主な監視対象ファイルのパターンやハッシュ値プロセスの挙動、通信、権限変更など
未知の亜種への強さパターン未登録だと検知しづらい動きが怪しければ検知しやすい
導入・運用のしやすさ比較的シンプルで運用負荷が低いアラート分析など運用設計が必要

ポイント:ウイルス対策ソフトは今でも重要ですが、検知の「最後の砦」ではなく、多層防御の「一要素」に過ぎないという前提で設計を考えることが大切です。逆に言うと、ここを勘違いして「アンチウイルスさえ入れておけば安全」と思い込んでしまうと、ランサムウェアにとって格好のターゲットになってしまいます。

ランサムウェアの歴史や進化の流れを一度整理しておきたい場合は、当社サイトのランサムウェアの発祥と進化を整理した解説も参考になると思います。背景を押さえておくと、「なぜここまで防ぎにくくなっているのか」が腹落ちしやすいはずです。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない具体的な攻撃手口

「防げない」と言われると少し抽象的なので、もう少し具体的な攻撃手口をイメージしてみましょう。現場で実際にインシデント対応に呼ばれると、同じようなパターンが繰り返し見えてきます。あなたの組織でも起こりうるシナリオとして、ぜひ自社の環境に置き換えながら読んでみてください。

典型的な侵入パターン

  • 添付ファイルやURLを悪用したフィッシングメール
  • VPN装置やファイル転送サーバの脆弱性を突いた侵入
  • 盗まれたIDとパスワードを使ったリモートデスクトップへの不正ログイン
  • SaaSやクラウド管理画面へのクレデンシャルスタッフィング

たとえば、フィッシングメールの添付ファイルから最初に落ちてくるのは「ランサムウェア本体」ではなく、小さなダウンローダーだったりします。この小さなプログラムが外部のC2(コマンド&コントロール)サーバと通信し、状況を確認しながら本体や別のツールを順次ダウンロードしていくイメージです。この段階では、単発の通信や小さなファイルのやり取りにしか見えず、「決定的な悪意」とまでは判断しづらいことが多いです。

攻撃が進むと、次のような動きが組み合わされます。

  • ドメイン管理者権限の奪取
  • バックアップサーバやNASの消去・暗号化
  • 重要ファイルの窃取とリークサイトへの公開予告(ダブルエクストーション)
  • 監視ツールやウイルス対策ソフトの停止・設定変更

ここで重要なのは、多くの工程が「正規の管理者がやってもおかしくない操作」とほぼ同じように見える点です。たとえば、夜間に一斉にパッチを適用する作業と、夜間に一斉にランサムウェアを配布する作業は、ネットワークのログだけ見ると似たパターンに見えることがあります。だからこそ、「誰が」「どの端末から」「どの時間帯に」操作しているかといったコンテキストを組み合わせて判断する必要が出てきます。

注意:最近は、暗号化を行わず情報漏えいと恐喝だけを行う攻撃や、バックアップだけを狙い撃ちする攻撃も出てきています。「暗号化されなかったからセーフ」では決してありません。情報が盗まれていれば、個人情報保護や取引先への説明責任など、別の意味で非常に重い対応が求められます。

また、攻撃者の「滞在時間」が短くなっている点も見逃せません。以前は、侵入から暗号化まで数週間〜数か月かけてじっくり内部調査を行うパターンが主流でしたが、最近は数日、場合によっては数時間で一気に暗号化まで進めてしまうケースもあります。これは、検知される前に利益を確保したい攻撃者側の事情と、ツールの自動化が進んだ結果だと考えられます。

こうした一連の流れは、単純な「怪しいファイルを検査する」発想だけでは追い切れません。ランサムウェア対策は、攻撃のライフサイクル全体(初期侵入、権限昇格、内部偵察、横展開、バックアップ破壊、暗号化、恐喝)を通して分解して考える必要があります。それぞれの段階で「どんなログが残るか」「どこで止められそうか」を洗い出していくと、必要な防御策や監視ポイントが見えやすくなりますよ。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないファイルレス型の脅威

次に、ここ数年で一気に存在感を増しているファイルレス攻撃について触れておきます。ファイルレスランサムウェアは、その名の通りディスク上に目立つ実行ファイルを残さず、PowerShellやWMI、.NET、Officeマクロのような既存の機能を組み合わせてメモリ上で動作するのが特徴です。「ウイルスっぽいEXEファイルが置かれるわけではない」というのが、現場からすると非常に怖いポイントです。

従来のウイルス対策ソフトは、ディスク上のファイルをスキャンして不審なパターンを検出する、という前提で設計されてきました。そのため、正規プロセスの内部でスクリプトが悪用されているだけの場合、検知の糸口が非常に少なくなります。ログを丹念に追いかけてみると「PowerShellで大量の暗号化処理を実行していた」といった形跡が残っていても、リアルタイムでは気づきにくいのです。

さらに、メールの無害化やファイルのサニタイズが追いついていない環境では、OfficeファイルやPDFの中に仕込まれたスクリプトがトリガーとなり、そこから複数のファイルレスステージが展開されることもあります。添付ファイルが「見た目は普通の請求書」に見えるほど、現場では判断に迷いやすくなりますし、経理担当など「どうしてもファイルを開かないと業務が回らない」ポジションが狙われやすくなります。

豆知識:当社が扱っているCDR(無害化)ソリューションのように、ファイルを解析・再構築して悪意ある要素を取り除くアプローチは、ファイルレス型ランサムウェアの一部にも有効です。興味があれば、CDRを活用した無害化ソリューション GateScannerもチェックしてみてください。メールやWebアップロードの入口で無害化をかけておくだけでも、リスクの「総量」をかなり削れる感覚があります。

ファイルレス型の脅威に対しては、エンドポイントの挙動監視やスクリプトの実行制御、アプリケーション制御など、「どのプロセスが何をしたのか」を細かく追いかける仕組みが欠かせません。具体的には、以下のような対策が考えられます。

  • PowerShellの実行ポリシーを適切に制限し、署名付きスクリプト以外は原則禁止にする
  • 管理者権限でのスクリプト実行を極力行わない運用ルールにする
  • アプリケーション制御(ホワイトリスト方式)で、業務に不要なツールの実行をブロックする
  • EDRでスクリプトの呼び出しや異常なプロセスチェーンを可視化し、アラートをトリアージできる体制を整える

ここで大事なのは、「スクリプト禁止」という極端な話ではなく、業務上必要なスクリプトとそうでないものを見極めることです。最初は少し手間に感じるかもしれませんが、一度棚卸しをしてルールを決めてしまえば、運用はだんだん楽になっていきます。あなたの環境で、どの部署がどんなスクリプトを使っているか、一度洗い出してみるのも良いきっかけになると思います。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないポリモーフィック変異の仕組み

ポリモーフィック(多形)マルウェアは、自分自身のコードを少しずつ変化させることで、同じランサムウェアでありながら毎回異なるファイルハッシュや構造を持つように設計されています。さらに進んだメタモーフィック型になると、暗号化処理以外のロジックまで大きく書き換えられ、もはや「同じファミリーなのに見た目は別物」という状態になることもあります。

こうなると、事前に収集した検体をもとにシグネチャを作っても、「次のバージョン」が現れた瞬間に検知できなくなるリスクが常に付きまといます。シグネチャ更新の頻度をどれだけ上げても、攻撃者側の変異スピードがそれを上回ってしまえばイタチごっこになってしまうわけです。機械学習ベースのエンジンや、クラウド上でのサンドボックス解析など、新しい検知技術も実用化されていますが、それでも100%を保証できるものではありません。

攻撃者は、防御側の検知ロジックを逆手に取る形で進化を続けています。たとえば、少しずつ機能を追加・削除しながら検知回避テストを自動化したり、暗号化処理を正規ライブラリに肩代わりさせて「ただのAPI呼び出し」に見せかけたりする工夫も行われています。また、検知されやすい挙動を別のコンポーネントに分離し、本体からは切り離して運用するなど、「検知されても本丸だけは守る」工夫をしているグループもあります。

変異型ランサムウェアのイメージ

世代主な変更点防御側への影響
第1世代固定キーによる単純な暗号化シグネチャ更新で比較的対処しやすい
第2世代パッカーや難読化ツールによる隠蔽静的解析だけでは判別が難しくなる
第3世代自己変形、コードの部分更新、自動テスト亜種ごとに挙動も少しずつ変わり、検知難度が上昇

ポイント:ポリモーフィックなランサムウェアに対しては、ファイルそのものではなく「振る舞い」や「コンテキスト」を見る必要があるため、エンドポイントやネットワークのログを組み合わせた監視体制が重要になります。どの端末で、誰の権限で、どのくらいのファイルが短時間に書き換えられているのか、といった「動き」を捉えるイメージです。

ゼロデイ攻撃と組み合わさった場合、この「変異するランサムウェア」はさらに見えにくくなります。パッチがまだ提供されていない脆弱性を突かれた場合、入口の段階で検知・遮断するのは非常に難しくなります。だからこそ、「侵入される前提」で内部の監視や権限管理を強化しておくことが、結果的にランサムウェア対策としても効いてくるのです。ゼロデイ攻撃の仕組みや企業が取るべき基本的な対策は、当社のゼロデイ攻撃の仕組みと企業が取るべき対策でも詳しく解説しています。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない正規ツール悪用の手法

もうひとつ、現場で本当に厄介なのが「Living off the Land(LoTL)」と呼ばれる正規ツールの悪用です。攻撃者は、PowerShell、WMI、PsExec、タスクスケジューラ、さらには管理者が日常的に使う各種管理ツールを、そのままランサムウェア攻撃の一部として流用します。「標準で入っているものしか使っていないから安全」とは決して言えない、ということですね。

たとえば、侵入後の横展開では以下のような動きがよく見られます。

  • ドメインコントローラからの認証情報ダンプ
  • PsExecやリモートPowerShellを用いた一斉配布
  • グループポリシーを使ったマルウェアの展開設定
  • バックアップサービスやセキュリティサービスの停止

これらは、一見すると「管理者がやりそうな操作」にしか見えません。サーバのリプレース作業や一斉パッチ適用など、日常の運用でも似たようなコマンドやツールが使われるため、単純なシグネチャでは不審な動きとして判定しづらいのです。また、「誰がその操作をしたのか」が共有アカウントで見えなくなっている環境では、ログを見ても犯人が特定できないという問題も出てきます。

注意:正規ツールの悪用は、ログを見ない限り「静かな侵入」として進行しやすいという特徴があります。ウイルス対策ソフトを入れているからといって、管理者権限の運用やログの分析を軽視してしまうと、気づいたときには組織全体が暗号化されている、という事態にもつながりかねません。

この領域では、EDRによるプロセス間の関係性の可視化や、SIEMによるログ相関分析が大きな役割を果たします。具体的には、以下のような視点でログを設計していくと良いかなと思います。

  • 管理用アカウントと通常アカウントを明確に分け、誰がどのアカウントを使ったかを追えるようにする
  • PowerShellやPsExecなどの重要ツールについて、実行ログを必ず収集し、異常な実行回数や時間帯をアラートにする
  • グループポリシーの変更や新規登録については、必ず承認フローと変更記録を残す
  • バックアップ関連サービスやセキュリティサービスの停止イベントを、優先度の高いアラートとして扱う

単一ツールではなく、運用プロセスと組み合わせた「人とツールのセット」で監視していくことが重要です。ツールを入れただけで放置してしまうと、「ログはたくさんあるけれど、誰も見ていない」という状態になりがちなので、インシデント対応の責任範囲やエスカレーションルールもセットで決めておくと安心です。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない状況での効果的対策

ここからは、「ランサムウェアはウイルス対策ソフトだけでは防げない」という前提に立ったうえで、企業としてどのような多層防御を組み立てればよいのかを整理していきます。技術要素だけでなく、運用や組織文化も含めた全体像をイメージしながら読んでみてください。「全部いきなりやる」のではなく、どこから優先して着手するかを考える材料になればうれしいです。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げない時代におけるEDRとXDR

EDR(Endpoint Detection and Response)は、端末上で起きている挙動を時系列で追跡し、不審な振る舞いを検知・可視化するための仕組みです。従来のウイルス対策ソフトが「怪しいファイル」を軸にしていたのに対して、EDRは「怪しい動き」を軸にしているイメージですね。ここが、ランサムウェアのように変異し続ける脅威への対抗手段として大きなポイントになります。

たとえば、以下のようなシナリオに強みがあります。

  • OfficeファイルのマクロからPowerShellが起動し、外部と通信して新たなペイロードをダウンロードした
  • 深夜帯に、普段扱わないユーザーが大量のファイルを暗号化し始めた
  • ドメイン管理者権限を取得しようとする一連のコマンドが実行された

こうした「ふるまい」の異常を検知し、その端末を自動でネットワークから隔離したり、プロセスを強制終了させたりするのがEDRの役目です。ランサムウェアが実際に暗号化を始めるまでのわずかな時間を、どれだけ早く捕まえられるかが勝負になってきます。EDRを導入するだけで、これまで「ログを集めるだけ」で終わっていた世界から、「攻撃のシナリオが見える」世界に一気に変わる感覚があります。

さらに、XDR(Extended Detection and Response)では、EDRで集めた情報に加え、メールゲートウェイ、ファイアウォール、プロキシ、クラウドサービスなど、複数の領域のログを統合して相関分析を行います。これにより、メールでのフィッシングからエンドポイントでの実行、クラウドへのデータ持ち出しまで、攻撃の全体像を立体的に把握できるようになります。「どこから侵入され、どこまで侵害されたのか」を説明できることは、経営層への報告や取引先への説明の意味でも、非常に大きな価値があります。

ポイント:ウイルス対策ソフトは「既知の脅威への入口対策」、EDRとXDRは「未知の脅威や侵入後の動きを捕まえるレーダー」と捉えて、役割分担を意識して設計すると現実的です。「どの段階の攻撃を、どの製品で見るのか」をマッピングしてみると、足りない部分が見えてきますよ。

もちろん、製品ごとに特徴や得意分野がありますし、自社の規模や運用体制によって最適な構成は変わります。導入の際は、評価版やPoCで「自社のログや環境でどう見えるか」を必ず確認することをおすすめします。そのうえで、「自社で運用するのか」「MDRなど外部サービスに任せるのか」を決めていくと、現場の負荷も見込みやすくなるはずです。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないためのゼロトラストとアクセス管理

ランサムウェア対策を考えるとき、入口だけに注目すると「侵入されたら終わり」という感覚になりがちです。しかし、ゼロトラストの考え方に立つと、「侵入される前提で、どこまで動けるかを制限する」という発想に変わります。ここが、経営層にも理解してもらいやすいポイントで、「侵入されても事業を止めないための設計」と言い換えることもできます。

具体的には、以下のような施策が重要になってきます。

  • 最小権限(Least Privilege)の徹底:ユーザーやサービスアカウントに付与する権限を、本当に必要な範囲に絞る
  • 多要素認証(MFA)の導入:VPN、RDP、クラウド管理画面など、ランサムウェアの足場になりやすいポイントには必須で適用する
  • ネットワークのセグメンテーション:社内LANを用途や重要度ごとに分割し、セグメント間のアクセスを必要最小限に制限する
  • 継続的な認証・認可:ユーザーやデバイスの状態を常に評価し、異常があれば追加認証やアクセスブロックを行う

ゼロトラストを完璧な形で一気に導入する必要はありません。まずは、外部公開しているVPNやリモートアクセスのセキュリティ強化、管理者アカウントの棚卸しといった、影響範囲が大きい部分から着手するのが現実的です。「社外からアクセスできる経路」「管理者権限を使える経路」を一覧化してみるだけでも、かなり見えてくるものがありますよ。

豆知識:ゼロトラストは「境界防御をやめる」という意味ではなく、境界の外側と内側の両方で認証・検証を繰り返すという考え方です。既存のファイアウォールやウイルス対策ソフトとも共存できますし、「これまでの投資が無駄になる」という話ではありません。むしろ、今ある対策を前提に「次の一手」をどう組み合わせるか、という発想が近いです。

こうしたアクセス管理の強化により、仮に1台の端末がランサムウェアに侵害されても、社内全体への横展開を大きく遅らせたり、そもそも不可能にしたりすることができます。結果として、インシデント対応時の影響範囲が限定され、復旧時間やコストにも直接効いてきます。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないを踏まえた多層防御戦略

ここまで触れてきたように、ランサムウェアは入口も手口も多様化しているため、単一の対策で完璧を目指すのは現実的ではありません。そこで鍵になるのが、多層防御(Defense in Depth)の考え方です。これは、「一つの防御が破られても、次の防御で食い止める」前提で設計する考え方で、現場でインシデント対応をしていると、この発想の有無で被害の広がり方がまったく違ってきます。

多層防御の代表的なレイヤー

  • 入口対策:メールフィルタリング、Webフィルタリング、CDRによる無害化
  • エンドポイント対策:ウイルス対策ソフト、EDR、アプリケーション制御
  • ネットワーク対策:ファイアウォール、IPS/IDS、NDR、ゼロトラスト構成
  • 監視・対応:SOCやMDRによる24時間監視、インシデントレスポンス手順
  • 復旧対策:バックアップ、DRサイト、BCPとの連携

重要なのは、これらをバラバラに導入するのではなく、「誰が」「どのツールで」「どのタイミングで」対応するのかを事前に決めておくことです。たとえば、EDRでアラートが上がったときに、ネットワーク側の遮断を誰がどこまで行ってよいのかが曖昧だと、初動が大きく遅れてしまいます。「EDR担当はここまで」「ネットワーク担当はここから」「最終判断はここで行う」といった線引きを、普段から決めておくことが大切です。

多層防御設計のチェックポイント例

レイヤー主な目的自社での現状
入口対策怪しいファイルやURLを入口で止めるメール・Webの制御状況を棚卸し
エンドポイント端末上の異常な挙動を検知・遮断AV+EDRの導入・設定状況を確認
ネットワーク不審な通信や横展開を抑止セグメント構成と監視ポイントを確認
監視・対応インシデントの早期検知と初動対応SOC/MDR、社内体制の有無を確認
復旧事業継続とデータ復元バックアップとBCPの整合性を確認

多層防御は、ツールの数を増やすことではなく、「検知から対応・復旧までの連携を設計すること」だと考えると、投資の優先順位が見えやすくなります。たとえば、「すでにウイルス対策ソフトとファイアウォールはあるので、次はEDRとバックアップの強化を優先しよう」といったロードマップが描きやすくなります。

ランサムウェア対策は企業規模や業種によっても最適解が変わるため、ここで挙げた内容はあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトなどの一次情報も必ず確認し、最終的な判断は専門家にも相談しながら、自社の予算や人員にフィットした現実的なプランを作っていくことをおすすめします。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないに備えるバックアップ戦略と復元訓練

ランサムウェア対策の文脈で必ず出てくるのが、バックアップの話です。とはいえ、「バックアップを取っているから安心」と言い切れるケースは意外と多くありません。バックアップそのものが暗号化・削除されたり、長期間気づかないうちに汚染されていたりする事例も実際にあります。ここを勘違いしないために、バックアップ戦略を少し丁寧に整理しておきましょう。

実践したいバックアップの3-2-1ルール

  • データは3つ以上のコピーを持つ
  • 2種類以上の異なる媒体に保存する
  • 1つはオフサイト(またはオフライン)で保管する

この3-2-1ルールに加えて、最近はオブジェクトストレージのイミュータブル設定や、スナップショット機能を活用した「書き換え不可」なバックアップ領域を用意するケースも増えています。重要なのは、本番系とバックアップ系の認証・権限を分離し、ランサムウェアが同じ資格情報で両方を破壊できないようにすることです。たとえば、バックアップサーバへのアクセスにだけ別アカウントを使う、管理者パスワードを分ける、といった運用が有効です。

注意:バックアップ構成や保管期間にはコストも関わってくるため、ここで紹介している内容はあくまで一般的な目安です。自社にとって現実的なレベル感を決める際は、業務要件や予算、法令・ガイドライン上の保管義務なども含めて検討する必要があります。正確な要件は、必ず公式な情報源や専門家の助言を確認してください。

そしてもう一歩踏み込むなら、「復元訓練」を定期的に実施することを強くおすすめします。バックアップからのリストア手順をマニュアルだけでなく実機で試しておくことで、以下のようなメリットがあります。

  • 想定した復旧時間(RTO)で本当に復旧できるかが分かる
  • 復旧作業に必要な人員・権限・手順の漏れに気づける
  • バックアップデータが正常かどうか、定期的に検証できる

もし復元訓練をしたことがない場合は、まずは一部のシステムだけでも構わないので、「どれくらい時間がかかるのか」「どの作業でつまずきやすいのか」を体験してみると良いかなと思います。実際にやってみると、権限が足りなかったり、マニュアルが古かったり、想像以上に細かなハードルが見えてきます。

万が一ランサムウェアに感染してしまった場合でも、「最悪ここまで戻せる」というラインを具体的に持っているかどうかで、経営判断の難易度は大きく変わります。身代金の支払いについても、最終的な判断は法的・倫理的な観点を含めて慎重に行う必要があり、「支払わなくても事業を継続できるだけのバックアップと復旧手段」があるかどうかは、とても大きな意味を持ちます。

ランサムウェア ウイルス対策ソフト 防げないという現実を前提とした組織文化の構築

最後に、技術的な対策だけではなく、組織としての向き合い方について触れておきます。ランサムウェアはウイルス対策ソフトだけでは防げない、という現実は少しショッキングかもしれませんが、それを前提として仕組みと文化を作っていくことが大切です。ここが整っているかどうかで、「同じ攻撃を受けても結果がまったく違う」ということが本当にあります。

まず、従業員向けのセキュリティ教育と、定期的な疑似フィッシング訓練は欠かせません。「怪しいメールを開かない」「怪しいリンクをクリックしない」といった基本も、実際の画面を見ながら練習してみることで、現場に定着しやすくなります。ここ、正直ちょっと地味ですが、効果はかなり大きいです。万一怪しい挙動に気づいたときに、誰にどう報告すればよいかを決めておくことも重要です。

次に、インシデント対応計画をあらかじめ整備し、机上演習や実動訓練を通じてブラッシュアップしていきましょう。ランサムウェアの感染が疑われた場合、どのタイミングでシステムを止めるのか、どの範囲を隔離するのか、社内外への連絡は誰が行うのか、といった判断は、事前に決めておかなければ混乱のもとになります。特に、経営層や広報、法務など、IT以外の部門との連携も事前に決めておくと、いざというときに動きやすくなります。

ポイント:「ランサムウェアはウイルス対策ソフトだけでは防げない」という前提を全社で共有し、技術・プロセス・人材の三つの軸で少しずつ強化していくことが、結果的に一番の近道です。「全部完璧にしてから動く」のではなく、「できるところから一歩ずつ前に進める」イメージで取り組むのが現実的かなと思います。

この記事で紹介した内容や数値は、あくまで一般的な目安であり、すべての企業にそのまま当てはまるとは限りません。正確な情報は各製品の公式サイトや公的機関の情報も必ず確認し、最終的な判断は社内の担当者だけで抱え込まず、専門家や信頼できるベンダーにも相談しながら進めていくのが安心かなと思います。

株式会社ネルフ・エンタープライズとしても、輸入商社の立場から国内外のソリューションを組み合わせたご提案を行っています。ランサムウェア対策をどこから手を付けるべきか悩んでいる場合は、一度現状の環境やお困りごとを整理するところから、一緒に考えていきましょう。あなたの組織にとって「ちょうどいいセキュリティ」を一緒に探していければうれしいです。

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